แชร์

5-34 日曜日の過ごし方 4

ผู้เขียน: 結城 芙由奈
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-03 08:28:45

 ――17時

「はぁ……」

お見舞い用の花束を抱えてため息をついていた。

母に翔との関係を問い詰められるのが怖くて、青ざめていた昨日の母の姿を見るのが辛くて……ついこんな時間までぐずぐずしてしまっていたのだった。

入院病棟の前で何度かため息をついて、中へ入ろうと深呼吸した時――

「朱莉さん!」

振り向くと、若干呼吸を乱した琢磨が立っていた。驚きのあまり、朱莉の目が丸くなる。

「ど、どうしたんですか? 九条さん」

すると琢磨はツカツカと朱莉の傍へ寄ると、驚く位の至近距離で立ち止まった。

「あ、あの……く、九条さん……。ち、近いです……」

壁際近くまで追い詰められ、身体が触れ合う程に近付かれた朱莉は花束を抱え、俯いた。

その瞬間、琢磨は自分の行動に初めて気づいて慌てて距離を取った。

「ご、ごめん……翔から朱莉さんのお母さんが昨夜救急車で運ばれたって話を聞かされて……つい……」

謝りながら、琢磨は自分自身で驚いていた。距離感が分からなくなるくらいに我を失うなんて今までの人生で経験したことが無かったからだ。

「い、いえ。いいんです。それだけ気にかけていただいたってことですよね? ありがとうございます。翔さんの秘書と言うだけで私にまでご親切にしていただいて感謝しています」

「朱莉さん……」

「あ、今母の面会に行くところなんです。だから……」

どうぞお帰り下さい、朱莉はそう伝えるつもりだったのだが……。

「俺も面会……させて貰えるかな?」

琢磨は朱莉に紙バックを差し出した。

「え……? これは何ですか?」

朱莉は差し出された紙バックと琢磨の顔を交互に見て、首を傾げた。

「朱莉さんのお母さんは入院されているから食べ物は駄目だろうと思って、江の島の雑貨店でマグカップを買ってみたんだ。気に入ってもらえるかは分からないけど……」

少し照れた様子の琢磨を朱莉はじっと見つめる。

「九条さんて……何だか意外ですね」

「意外?」

首を傾げる琢磨。

「はい。何だか意外です。翔さんの副社長の秘書という立派な仕事をされている方だったので常に冷静沈着な方だと思っていたんです。日常生活でも……」

「……」

琢磨は黙って朱莉の話を聞いていた。

「でも、親しみやすさもあって……そういうところ、いいなって思います。マグカップ、どうもありがとうございます。母に手渡しておきますね」

「朱莉さん。俺は面会させて貰
อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป
บทที่ถูกล็อก

บทที่เกี่ยวข้อง

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-1 ホワイト・デーの前日の会話 1

    3月13日―― 今日も朱莉は母親の面会に来ていた。「お母さん、今日はネイビーの写真を持ってきたよ」朱莉はスマホで撮影したネイビーの写真を母に楽しそうに見せた。「あら、本当に可愛いわね。絵本のピーターラビットを思い出すわ」洋子は目を細めて写真を眺めている。結局、洋子は翔と朱莉、そして明日香の関係を尋ねる事は無かった。それは母の気遣いであることは痛いほど朱莉には分かっていた。だけど真実を母に告げる事等朱莉には出来ない。だから今は母のあえて何も聞かないという優しさに甘えていたいと朱莉は思うのだった。(ごめんね。お母さん……いずれ話せる時が来た時は全て話すから)朱莉はそのとき、ふとテーブルの上に琢磨が母にとプレゼントしてくれたマグカップに気が付いた。「お母さん、そのマグカップ使っているんだね」「ええ、デザインも素敵だし大きさも、持ちやすさも丁度良いのよ。確かお名前は……九条さんだったかしら? センスがある素敵な男性よね?」洋子はニコリと笑う。「そ、そうだね……」(お母さん、どうしちゃったんだろう? いつも九条さんの話になるとすごく褒めるけど……)「ねえ。朱莉は九条さんのような男性、どう思う?」洋子は意味深な質問をしてきた。「え……? 九条さんのこと?」朱莉は今迄の琢磨の行動を思い出してみた。もっとも最近は会う事も無く、最後に会ったのもこの病棟の中である。「う~ん。すごく仕事が出来て……気配りも出来る男性……かな?」「あら? それだけなの?」何故か残念そうに言う洋子に朱莉は首を傾げた。「う、うん……。そうだけど?」「そう……分かったわ。ところで朱莉、もう帰った方がいいんじないの? 通信教育のレポートの課題がまだ残ってるんでしょう?」「う、うん。そうなんだけど……」「私のことなら大丈夫だから、早く帰ってレポート仕上げなさい。単位が貰えないと大変なんでしょう?」朱莉は母親の提案に従うことにした。「うん。それじゃ、今日はもう帰るね」立ち上がって、コートを羽織る朱莉に洋子は声をかけた「朱莉、明日は特別な日になるといいわね?」「え? 何のこと?」朱莉には母が言っている話が理解出来なかった。「フフフ……なんでもないわ。それじゃ気を付けて帰るのよ?」「うん、それじゃまたね。お母さん」**** 病院を出たのは18時だった

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-03
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-2 ホワイト・デーの前日の会話 2

    その頃、琢磨と翔は仕事の合間の小休憩していた。「翔、明日はホワイト・デーだ。しかも週末。何か予定は立てているのか?」ブルーマウンテンを飲みながら琢磨が尋ねた。「勿論だ。フランス料理のレストランを予約してあるんだ。そこへ行く」翔はカフェ・ラテを飲みながら答えた。「……何人で行くつもりだ?」「え? 2人で行くに決まっているだろう?」「それって……明日香ちゃんとか?」何故かイライラした口調の琢磨。「勿論だ。え? もしかして朱莉さんも誘えってことか?」「朱莉さんはどうするんだよ? お前手編みのマフラー貰ってるよな?」「彼女にはギフトとして若い女性に人気のスイーツを買ってある。明日自宅に届くように配達を頼んでいる所だ」翔の無神経な言葉に琢磨はつい声を荒げてしまった。「おい、翔! 何処の世界にホワイト・デーのお返しをお中元やお歳暮じゃあるまいし郵送する奴がいるんだ? しかも朱莉さんはお前達のすぐ真上の階に住んでるじゃないか! 直接届けて顔を見せてあげようとかは思わないのか?」「何を言ってるんだよ、琢磨。明日香の手前、そんなことが出来ないのは知ってるだろう? それに彼女が俺にマフラーを編んでくれたのも一応書類上は俺の妻になってるからだ。その役目を果たそうと編んでくれたんだろう? 第一俺と朱莉さんは契約婚で、そこに何らかの感情が伴っている訳でも無いのだから」翔の言葉に琢磨は呆れてしまった。(はあ? 翔の奴、本気でそんな風に思っていたのか? あれ程朱莉さんに好意を寄せられてるってことに全く気が付いていないって言うのか? 信じられない……これでは、あまりに朱莉さんが気の毒過ぎる!)だからつい、余計な事と思いつつ琢磨は口にしてしまった。「だったら……だったら何故、俺に朱莉さんへのホワイト・デーのお返しを渡すのを頼まなかったんだ?」「は?」翔がぽかんとした顔で琢磨を見た。そして琢磨も今の発言に自分自身で驚いていた。(え……? お、俺は今一体何を言ってしまったんだ?)考えてみればおかしな話である。第三者がホワイト・デーのお返しを渡すなんて、世間一般では考えられない話だ。「わ、悪い。今の話は忘れてくれ。……どうかしていたよ……」琢磨は再びコーヒーに口を付けた。「琢磨は朱莉さんからバレンタインに何か貰ったのか?」「ああ。貰った」「へえ~何を

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-03
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-3 ホワイト・デーの思惑 1

    ――3月14日金曜日 朱莉が部屋で課題のレポートを仕上げた頃、個人用スマホが鳴った。(誰からだろう……? 九条さんかな?)スマホをタップし、驚いた。何と相手は京極からだったのだ。『こんにちは、朱莉さん。実は昨日からマロンの具合があまり良くありません。これから獣医へ連れて行くところですが、良かったら一緒に獣医の所へついて来て貰えますか? 朱莉さんからマロンを引き取る前の話も出来れば病院で教えて貰いたいので。でもどうしても都合がつかなければ、無理にとは言いません』「え……! マロンが……?」マロンに会っていいものかどうか、朱莉は一瞬迷った。だが、元々は朱莉が飼い主。マロンが心配な気持ちに変わりない。時計を見ると16時になろうとしている。母には悪いが今日の面会は無理だろう。朱莉はすぐに母親の入院先の病院へ電話を入れて、面会に今日は行けそうに無い旨を言伝して貰うことにした。その後、京極にメッセージを送った。『はい、勿論大丈夫です。何時に何処で待ち合わせをすればよろしいでしょうか?』**** 京極が指定して来たのはドッグランだった。朱莉は気が急く思いで待っていると、キャリーバックにマロンを入れた京極がやって来た。「朱莉さん、お待たせしてすみません」「いえ……。それでマロンの様子は……?」朱莉はキャリーバックの中を覗くと、マロンがぐったりした様子で眠っている。「マロン……!」朱莉は悲痛な声を上げた。「朱莉さん。今からこちらに車を回してくるので、マロンを連れてここでお待ちいただけますか?」「はい、勿論です。よろしくお願いします」京極は頷くと小走りに駐車場へと向かって行った。それからものの5分程で、朱莉の前に1台のベンツがやってきて止まると運転席のドアが開き、京極が下りてきた。「朱莉さん、乗って下さい」「はい」朱莉は後部座席に乗り込んだ。「朱莉さん、助手席に乗らなくて良いのですか?」京極は朱莉を振り返りながら質問した。「はい、マロンの様子を見たいので後部座席に座らせて下さい」「分かりました。それじゃ出発しますね」京極はハンドルを握ると、アクセルを踏んだ――**** 京極の話では昨日から少しマロンの食欲が落ちて、元気があまりなかったと言う。そして今日になり、下痢や嘔吐、発熱の症状が起こったそうだ。「本当にすみません……

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-04
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-4 ホワイト・デーの思惑 2

    「朱莉さん。もしよければ何処かで食事をして帰りませんか? この近くに美味しいイタリアンの店があるんですよ。お詫びにご馳走させて下さい」病院を出ると、京極が朱莉を食事に誘ってきた。「お詫びなんて言わないで下さい。マロンの病気は京極さんのせいではありませんから」すると……。「お詫びなんてただの口実です。朱莉さん。僕は貴女に色々聞きたいことがあるんです。どうか僕の為に朱莉さんの時間を分けて貰えませんか?」京極がいつになく真剣な目で朱莉を見つめている。「き、聞きたいこと……?」朱莉は口元を震わせ、京極は慌てた。「い、いえ! 決して朱莉さんを尋問しようとかそんなつもりはなく……ただ、色々とお話しできればと思っただけなので。答えたくなければ答えなくて結構ですから。ただ朱莉さんと話がしたいだけなんです」京極にはマロンを預かって貰った恩がある。だから彼の誘いを無下にすることは出来なかった。「分かりました。食事……御一緒させて下さい……」躊躇いがちに朱莉は返事をすると、京極が笑顔になる。「良かった……。ありがとうございます、朱莉さん」その笑顔は子供のように無邪気だった――**** 京極が連れて来てくれたイタリアンレストランは堅苦しい雰囲気が一切無く、カジュアルなイメージで料理もバリエーションに富み、美味しかった。 特にデザートのパンナコッタはとても朱莉の好みの味だった。 お店を出て、助手席に乗ると朱莉は嬉しそうにお礼を述べた。「京極さん、今夜は素敵なお店に連れて来て下さり、本当にありがとうございました。イタリアン料理とても美味しかったです」すると京極は笑顔になる。「こんなに朱莉さんに喜んでもらえるとは思いませんでした。てっきり今夜は断られてしまうかと思って、強引にお誘いしてしまったのですが……無理にお誘いした甲斐がありました。これで少し安心出来ましたよ」「え……? それは一体どういう意味ですか?」(今の京極さんの台詞……すごく意味深に取れるのだけど……気のせいかな?)すると、朱莉の質問に答える前に京極が言った。「ああ……あそこにいるのはやはり……」「え?」気づいてみると、そこはもう億ションのエントランスの前だった。そしてエントランスに設置してある椅子に人影がある。朱莉は驚きで目を見開いた。「あ、あの人は……京極さん! 車を止めて

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-04
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-5 月光の下で 1

     季節は流れ、早い物で明日からゴールデンウィークに入ろうとしていた。あの3月14日のホワイト・デーの夜。琢磨は人生で最も屈辱的な気持ちを味わい、それ以来朱莉と会うことも、連絡を取り合う事もすっかり無くなっていた。尤も朱莉と連絡を取り合う事が無くなった理由の一番の要因は、翔と朱莉が直接連絡を取り合うようになっていたからだ。2人が連絡を取り合えるようになった理由は明日香の方も最近は朱莉との連絡に対して翔や朱莉に文句を言うことが無くなったからである。これも偏にカウンセラーのお陰ともいえる。「それで明日から明日香ちゃんと旅行に行くって言う訳か。何所へ行くんだっけ?」昼の休憩時間、琢磨はケバブサンドを食べながら翔に尋ねた。「明日香の希望で沖縄と与論島に行くことにしたんだ」翔はキーマカレーを食べながら答えた。「珍しいな……いつもなら毎年大体海外に行っているだろう? 一体何があったんだ?」「いや、実は……明日香に子供がまた出来たんだ……」照れる翔に対し、驚く琢磨。「何だって!? 朱莉さんはそのことを知ってるのか!?」琢磨は険しい顔つきで尋ねた。「いや、まだだが? 実は今夜、報告しようと思ってるんだ」「そうか……今回は大丈夫なんだろうな?」「もう明日香は精神も大分安定してきたし、3カ月以上精神安定剤を服用もしていない。だから今度こそ間違いはない……だろう」翔はためらいながらも断言した。「大体、明日香ちゃんが子供を産むのはまだ無理だと以前お前は言っていたじゃないか? それがどういう風の吹き回しなんだ? 今は子供の誕生を何だか待ち望んでいるようにも聞こえるぞ?」食事を終えた琢磨はコーヒーを飲みながら首を傾げる。「実は……それなんだが……」翔が言いよどむ。「何だよ、はっきり言えよ」「そうだよな、隠していてもしようがない。実は祖父から言われていたんだ」「言われていたって……何を?」「その……いつになったらひ孫の顔が見れるんだ? って……」ひ孫の顔……。その言葉にピクリと琢磨は反応する。「だから、今回明日香が再び妊娠したのは丁度タイミングが良いと言うか……」「おい、翔。それで明日香ちゃんの妊娠中はどうするんだ? ずっとあの億ションんに住んでるのか? それに朱莉さんはどうする? お前の計画では明日香ちゃんが妊娠した場合は朱莉さんにも妊婦の

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-04
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-6 月光の下で 2

     だが、琢磨にも責任はある。そこで自分の考えを述べることにした。「俺だったら……。明日香ちゃんと朱莉さんをここから別の場所に移して、出産するまではそこで暮らしてもらうかな……。妊娠中は別の場所で過ごすって形を取れば、わざわざ朱莉さんにしたって妊婦の恰好をする必要は無いんだからな」自分で言っておきながら、琢磨は胸を痛めていた。(俺は最低だ……。明日香ちゃんが産む子供を、あたかも朱莉さんが出産するように見せかけるためにこんな手段を考えつくなんて……)しかし、当の翔は琢磨の心情を知ってか知らずか納得して頷く。「うん、そうだな。それが最もいい方法かもしれない。何所か明日香が妊娠期間中、穏やかに暮らせるような場所を探すことにしよう。出来れば朱莉さんにも明日香の妊娠期間中は近くに住んでもらって……」もう翔は自分の中で計画を立て始めていた。「おい……お前、まさか……朱莉さんと明日香ちゃんを同じ家に住まわせるつもりか?」「駄目か?」「駄目だ! いくら何でもそれだけはこの俺が許さないぞ! 大体良く言われてるじゃないか。妊娠期間中はホルモンバランスが崩れてイライラしやすくなるとか。その苛立ちを明日香ちゃんが朱莉さんにぶつけたらどうするんだ? せめて近所でも構わないから一緒には暮らさせるな。明日香ちゃんの面倒なら家政婦を現地で雇えばいいだろう?」喚きながら琢磨は心の中で自分自身をなじっていた。(くそ! こうやって俺は明日香ちゃんと翔の片棒を担いでいくことになるのか? これじゃますます朱莉さんとの距離が離れていってしまう……!)翔は琢磨の顔色が悪いことに気が付いた。「大丈夫か琢磨。何だか随分顔色が悪いようだが?」「い、いや。何でもない。俺のことは気にするな。朱莉さんに明日香ちゃんの妊娠を告げるときは……翔、お前から告げてやれよ」琢磨は翔の肩にポンと手を置いた。「分かったよ」「さて、それじゃ仕事を再開するか」琢磨は立ち上がると自分のデスクに向かい、PCの操作を始めた――****  その日の夜――朱莉がお風呂からあがってくると、翔との連絡用スマホにメッセージが届いていることに気が付いた。「あ、翔先輩からだ」朱莉の顔に自然と笑みが浮かぶ。翔とのメッセージのやり取りはいつも業務連絡のように単調なものだったが、それすらも朱莉にとっては嬉しかった。(

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-04
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-7 それぞれの休暇 1

    —―翌朝 朱莉は憂鬱な気持ちでカーテンを開けた。窓からは眩しい太陽の光が差し込んでくる。今日からゴールデンウィークに入るが、朱莉には特に重要な予定は入っていなかった。京極からは何度かゴールデンウィークに何処かへ出掛けようとの誘いのメッセージが入っていたが、朱莉はそれら全てをやんわりと断っていた。やはり書類上とはいえ、朱莉はこれでも人妻だ。当然京極もそれを承知の上なのに、何故朱莉に誘いをかけてくるのか、謎であったし、世間の目も気になった。それに何より契約婚を交わした時の書類には浮気は一切しないようにと書かれている。別に朱莉は京極に恋愛感情を持っている訳では無いが、一緒に出掛けたりすれば当然周囲の目から疑いの目で見られるのは分かり切っていたし、何より京極に迷惑をかけてしまいそうだったからだ。「私みたいに面倒な人間じゃなくて、もっと普通の女性を誘えばいいのに」朱莉はネイビーに水と餌を与えながら思わずポツリと呟いていた。それに京極からの誘いを断って来た理由はそれでけではない。「九条さん……」あのホワイト・デーの夜…まだうすら寒い外でコートの襟を立てて自分を待ってくれていた琢磨。そしてホワイト・デーのお礼として紙バックを渡してきた時のあの悲しそうな顔が目に焼き付いて、今も離れなかった。あの目は……どういう意味だったのだろう……。****「翔! ほら、早く! そろそろタクシーが来る時間よ!」明日香が大きなキャリーバックを前に億ションのエントランス付近で声をかけている。「ああ、分かった。今行くよ」翔は笑顔でキャリーケースを引っ張って出口に向かおうとした時、突然背後から声をかけられた。「おはようございます、旅行にでも行かれるのですか?」振り向くと、そこに立っていたのは2匹の犬を連れた京極であった。彼は険しい顔で翔と明日香を交互に見つめた。「え、ええ……ちょと……」翔は俯きながら返事をした。(まずい相手に会ってしまったな…)「ええ、そうよ。私達、これから沖縄へ行くのよ。そろそろ迎えのタクシーが来る頃だから邪魔しないでいただける?」明日香はゆったりした真っ赤なワンピースを揺らせながら口を挟んできた。「旅行はお2人だけで行かれるのですか?」京極は鋭い目つきで翔を見る。「……」翔が返事に困っているとまたもや明日香が言った。「ええ。そうよ。

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-05
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-8 それぞれの休暇 2

    —―同時刻 琢磨は食後のコーヒを飲みながらインターネットで検索をしていた。明日香と翔が沖縄旅行から戻ってくる前に、明日香が出産をする為に適した環境の地域を検索していたのだ。「医療設備も充実していて……温暖な気候……何処か良い地方都市は無いかな……」本来なら、明日香の為にこんな事をしてやる義理は琢磨には一切無い。今こうして検索してどこかの地方都市を探しているのは全ては朱莉の為であった。明日香のお腹が目立ってくる前に、2人をあの場所から離さなくてはならない。かといってそれぞれを全く別の土地に置くことも出来ない。いざという時の為に明日香の妊娠期間をどのように過ごしていたのかを朱莉が知っておく必要が出てくるかもしれないからだ。何せ、朱莉が出産したように世間を偽る必要があるからだ。「後は口が堅い病院を探さなければな……」偽証罪になってしまうのかもしれないが、明日香の出産記録を朱莉の記録に変えてもらわなければならないのだから、誰にも絶対に口外しない医者を探し出す必要がある。最悪、海外で明日香に出産させるという選択肢もあるが……出来れば日本で出産させたい。「ふう~」琢磨はパソコンの前で伸びをすると時計を見た。時刻は午前10時を過ぎた所である。恐らくもう翔と明日香は沖縄旅行へ出発しているはずだ。(朱莉さんは2人がゴールデンウィークの間、沖縄旅行へ行くことを知ってるのだろうか……?)琢磨は目をつぶると朱莉のことを思うのだった—―****「それじゃ、ネイビー。出掛けて来るからお利口にしていてね」朱莉はサークルの中に入っているネイビーの頭を撫で。朱莉は先月から教習所に通っていた。免許を取れば、1人で好きな場所へ行くことが出来る。それに母を乗せて買い物に連れて行ってあげることだって出来るのだ。「少しでも早く免許を取れるように頑張らなくちゃね」独り言を言いながらエレベーターに乗り込む朱莉。やがてエレベータは1階に止まり、エレベーターホールから降りると偶然京極に鉢合わせした。「「あ」」2人で同時に声を上げ……朱莉はすぐに頭を下げた。「こんにちは、京極さん」「こんにちは。朱莉さん。ああ……やはりこちらに残ってらしたんですね」「え? それはどういう意味でしょうか?」朱莉は顔を上げて京極を見た。「いえ。何でもありません。ところで朱莉さん。何処かへお

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-05

บทล่าสุด

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-8 東京で待ち受けていたもの 2

     17時――「ふう~疲れた……」朱莉は億ションへ帰って来ると、部屋の窓を開けて換気をするとソファの上に座った。「今日は疲れちゃったからご飯作るのはやめよう。東京へ戻って来た記念に思いきってどこかに食事に行ってみようかな……?」朱莉の本心を言えば、航に連絡を入れて2人で何処かで待ち合わせをしたかった。一緒にお店に入り、そこでお土産のTシャツを手渡して、食事が出来ればと願っていた。だが……突然航は東京へ戻り、そこからは一切連絡が来なくなってしまったのだ。航の性格からみて、それはとても考えられないことだった。(航君は、ひょっとすると京極さんに私との連絡を絶つように言われていたのかもしれない……)何故京極がそこまでのことをするのか、朱莉には見当がつかなかった。航に会えないことを思うと悲しい気持ちが込み上げてくる。それだけ朱莉にとって、航は大きな存在だったのだ。だが朱莉は航にも京極にも理由を尋ねる勇気が無かった。暫くソファに寄りかかり、ぼ~っと天井を見上げていると突然朱莉の個人用スマホの電話が鳴り始めた。(まさか、京極さん!?)慌ててスマホを取り出すと、それは母からの電話だった。「はい、もしもし」『ああ、朱莉。今日は私から電話を入れてみようかと思ったのだけど……今忙しいの?』受話器からは意外と元気そうな母の声が聞こえてきた。「ううん、そんな事無いよ。あ、そうだお母さん。実は今まで黙っていたけど私今日東京に戻って来たんだよ?」『え!? そうだったの!? びっくりだわ……。どうして今まで今日東京へ戻ることを教えてくれなかったの?』母はやはり朱莉が考えていたのと同じ事を尋ねてきた。「うん、ごめんなさい。はっきりいつ頃東京へ戻るか日程が決まっていなかったから言えなかったの。それでね、明日お見舞いに行こうと思ってるの。沖縄で綺麗な琉球ガラスの花瓶を買ってきたから、明日持ってお見舞いに行くね?」『ありがとう、朱莉。フフフ……久しぶりに貴女に会えると思うと嬉しいわ』「うん。お母さん。私も楽しみにしてるね。それじゃまた明日」朱莉は電話を切ると、部屋が肌寒くなっていたことに気づいて部屋の窓を閉めた。いつの間にか部屋の中はすっかり薄暗くなっていたので、遮光カーテンを閉めると部屋の電気をつけた。 信じられないくらいの広すぎる部屋。今まではこの部屋で

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-7 東京で待ち受けていたもの 1

     11月1日午前8時――   今日は朱莉が東京へ戻る日である。当初の予定では明日香達が日本へ戻って来る日に合わせて東京へ戻るはずだった。しかし、新生児を迎えるにあたり、沖縄から発送したベビー用品を受け取って部屋を用意しておきたいと朱莉が姫宮にお願いをすると、すぐに姫宮は朱莉の提案を聞き入れてくれた。(きっと翔先輩にお願いしても断られていたかも。姫宮さんにお願いしておいて良かった)ただし、翔からは億ションに戻った後は子供を迎えるまでは極力目立たない行動を取るように念を押されている。 朱莉が梱包して発送したベビー用品はもう全て六本木に発送済みだ。今は必要としない朱莉の荷物も全てまとめて発送した。このマンションには家具・家電も含めて食器類も全て備え付けだったので、朱莉自身の発送した荷物は微々たるものであった。所有する車は既に数日前にフェリーで東京の方へ輸送手続きを済ませてある。明日には運転代行業の業者が億ションまで運んでくることになっていた。  朱莉が乗る飛行機の便は11時。那覇空港へ行くにあたり、モノレールを利用する予定であった。「早めに那覇空港へ行ってお土産屋さんでも見ていようかな……」朱莉は呟くと、部屋の掃除を始めた。今までお世話になって来た部屋なので念入りに掃除を始めた。夢中になって掃除をし、気が付いた時には9時半になっていた。「大変。もうこんな時間だ。早く出かける準備をしなくちゃ」着がえをし、簡単にメイクをすると最後に忘れ物が無いか部屋の中をざっと確認し、足元にいたネイビーを抱きあげた。「ネイビー、いよいよ東京へ帰るよ」そして暖かなネイビーの身体に顔を寄せた。 キャリーバックにネイビーを入れ、ショルダーバッグにキャリーケースを持って朱莉はマンションを出た。そして自分が今まで住んでいた部屋に向かってお辞儀をした。(今までお世話になりました)心の中で感謝の意を述べると、朱莉は那覇空港へ向かった——**** 朱莉は那覇空港へ向かるモノレールの中で物思いにふけっていた。実は一つ気がかりなことがあったのだ。それは京極に黙って沖縄を去ること。本来であれば京極は朱莉を追って沖縄へやって来たようなものなので、本日東京へ戻ることを告げるべきなのかもしれない。しかし、何故突然戻ることになったのか尋ねられた場合、朱莉は答えることが出来ない

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-6 明日香の出産と隠された京極の裏の顔 2

     1人の男が朱莉の住むマンションの前に立っていた。その男はぎらつく目で朱莉の住む部屋のベランダをじっと見上げている。その時――「……こんな所で一体何をしているんだ?」京極が男に声をかけた。「い、いや……お、俺は……」男は狼狽したように後ず去ると、背後から体格の良い背広姿の男が突然現れて男を羽交い絞めにした。捕らえられた男を京極は冷たい瞳で睨み付けた。「まだコソコソと嗅ぎまわる奴らが残っていたのか……」それは背筋がゾッとするような声だった。「は……離せ! うっ!」暴れる男を押さえつけている男性は男の腕を捻り上げた。京極は身動きが出来ない男に近付くと、肩から下げた鞄を取り上げて漁り始めた。中からデジカメを発見すると蓋を開けてメモリーカードを引き抜いた。「よ、よせ! 触るな! うっ!」さらに腕をねじ上げられて再び男は苦し気に呻いた。そんな男を京極は冷たい目で見つめると、次に名刺を探し出した。「やはりゴシップ誌に売りつけるフリーの三流記者か……。どこの誰に教えられたのかは知らないが余計な手出しはするな。もし下手な真似をするなら二度とこの業界で生きていけない様にしてやるぞ?」それは背筋がゾッとする程冷たく、恐ろしい声だった。「だ、誰なんだよ……お前は……」「仮にもお前のような奴がこの業界で働いていれば名前くらいは聞いたことがあるだろう? 俺の名前は京極だ」「京極……ま、まさかあの京極正人か……!?」途端に男の顔は青ざめる。「そうか……やはり俺のことは知ってるんだな? 分かったら、二度と姿を見せるな。さもないと……」「ヒイッ! わ、分かった! もう二度とこんな真似はしない! た、頼む! 見逃してくれ!」「……どうしますか?」男の腕を締め上げていた男性は京極に尋ねた。「……離してやれ」男性が手を離すと、男はその場を逃げるように走り去って行った。その姿を見届けると男性は京極に尋ねた。「いつまでこんなことを続けるつもりですか?」「勿論彼女の契約婚が終了するまでだ」「しかし、それでは……」「今はまだ動けない。だが、最悪の場合は強引にこの契約婚を終わらせるように仕向けるつもりだ」その時、京極のスマホが鳴った。京極はその着信相手を見ると、一瞬目を見開き……電話に出た。「ああ……。教えてくれてありがとう。助かったよ……うん。早速

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-5 明日香の出産と隠された京極の裏の顔 1

     10月22日—— その日は突然訪れた。朱莉が洗濯物を干し終わって、部屋の中へ入ってきた時の事。翔との連絡用のスマホが部屋の中で鳴り響いていた。(まさか明日香さんが!?)すると着信相手は姫宮からであった。すぐにスマホをタップすると電話に出た。「はい、もしもし」『朱莉さん、明日香さんが男の子を先程出産されました』「え? う、生まれたんですね!?」『はい、かなりの難産にはなりましたが、無事に出産することが出来ました。私は今副社長とアメリカにいます。副社長は日本に戻るのは10日後になりますが、私は一時的に日本へ帰国する予定です。朱莉さんはもう引っ越しの準備を始めておいて下さい。朱莉さんが今現在お住いの賃貸マンションの解約手続きは私が帰国後行いますので、そのままにしておいていただいて大丈夫です。それではまた連絡いたします』姫宮からの電話はそこで切れた。(明日香さんがついに赤ちゃんを出産……そしてこれから私の子育てが始まるんだ……。それにしても難産って……明日香さん大丈夫なのかな……?)朱莉は明日香のことが心配になった。ただでさえ、情緒不安定で一時は薬を服用していたと聞く。回復の兆しがあり、薬をやめてから明日香は翔との子供を妊娠したが、その後は翔と姫宮の不倫疑惑が浮上。結局その件は航の調査で2人の間に不倫関係は認めらず、誤解だったことが分かったが明日香は難産で苦しんだ……。「明日香さん、元気な姿で日本に赤ちゃんと一緒に戻ってきて下さい」朱莉はそっと祈った。——その後朱莉は梱包用品を買い集めて来るとマンションへと戻り、買い集めていたベビー用品の梱包を始めた。一つ一つ手に取って荷造りを始めていると、自然と琢磨や航のことが思い出されてきた。「あ……このベビードレスは確か九条さんと一緒に買いに行ったんだっけ。そしてこれは航君と一緒に買った哺乳瓶だ……」朱莉の胸に懐かしさが込み上げてくる。(あの時は誰かが側にいてくれたから寂しく無かったけど……)だが、いつだって朱莉が一番傍にいて欲しいと願っていた翔の姿はそこには無い。翔と2人で過ごした日々は片手で数えるほどしか無かった。むしろ、冷たい視線や言葉を投げつけらる数の方が多かったのだ。(でも……翔先輩。私が明日香さんの赤ちゃんを育てるようになれば少しは私のこと、少しは意識してくれるかな……?)一度

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-4 京極と夜のドライブ 2

    観覧車を降りた後は、京極の誘いでカフェに入った。「朱莉さん。食事は済ませたのですか?」「はい。簡単にですが、サラダパスタを作って食べました」「そうですか、実は僕はまだ食事を済ませていないんです。すみませんがここで食事をとらせていただいても大丈夫ですか?」「そんな、私のこと等気にせず、お好きな物を召し上がって下さい」(まさか京極さんが食事を済ませていなかったなんて……)「ありがとうございます」京極はニコリと笑うと、クラブハウスサンドセットを注文し、朱莉はアイスキャラメルマキアートを注文した。注文を終えると京極が尋ねてきた。「朱莉さんは料理が好きなんですか?」「そうですね。嫌いではありません。好き? と聞かれても微妙なところなのですが」「微妙? 何故ですか?」「1人暮らしが長かったせいか料理を作って食べても、なんだか空しい感じがして。でも誰かの為に作る料理は好きですよ?」「そうですか……それなら航君と暮していた間は……」京極はそこまで言うと言葉を切った。「京極さん? どうしましたか?」「いえ。何でもありません」 その後、2人の前に注文したメニューが届き、京極はクラブハウスサンドセットを食べ、朱莉はアイスキャラメルマキアートを飲みながら、マロンやネイビーの会話を重ねた——**** 帰りの車の中、京極が朱莉に礼を述べてきた。「朱莉さん、今夜は突然の誘いだったのにお付き合いいただいて本当にありがとうございました」「いえ。そんなお礼を言われる程ではありませんから」「ですがこの先多分朱莉さんが自由に行動できる時間は……当分先になるでしょうからね」何処か意味深な言い方をされて、朱莉は京極を見た。「え……? 今のは一体どういう意味ですか?」「別に、言葉通りの意味ですよ。今でも貴女は自分の時間を犠牲にしているのに、これからはより一層自分の時間を犠牲にしなければならなくなるのだから」京極はハンドルを握りながら、真っすぐ前を向いている。(え……? 京極さんは一体何を言おうとしているの?)朱莉は京極の言葉の続きを聞くのが怖かった。出来ればもうこれ以上この話はしないで貰いたいと思った。「京極さん、私は……」たまらず言いかけた時、京極が口を開いた。「まあ。それを言えば……僕も人のことは言えませんけどね」「え?」「来月には東京へ戻

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-3 京極と夜のドライブ 1

     朱莉が航のことを思い出していると、運転していた京極が話しかけてきた。「朱莉さん、何か考えごとですか?」「いえ。そんなことはありません」朱莉は慌てて返事をする。「ひょっとすると……安西君のことですか?」「え? 何故そのことを……?」いきなり確信を突かれて朱莉は驚いた。するとその様子を見た京極が静かに笑い出す。「ハハハ……。やっぱり朱莉さんは素直で分かりやすい女性ですね。すぐに思っていることが顔に出てしまう」「そ、そんなに私って分かりやすいですか?」「ええ。そうですね、とても分かりやすいです。それで朱莉さんにとって彼はどんな存在だったのですか? よろしければ教えてください」京極の横顔は真剣だった。「航君は私にとって……家族みたいな人でした……」朱莉は考えながら言葉を紡ぐ。「家族……? 家族と言っても色々ありますけど? 例えば親子だったり、姉弟だったり……もしくは夫婦だったり……」最期の言葉は何処か思わせぶりな話し方に朱莉は感じられたが、自分の気持ちを素直に答えた。「航君は、私にとって大切な弟のような存在でした」するとそれを聞いた京極は苦笑した。「弟ですか……それを知ったら彼はどんな気持ちになるでしょうね?」「航君にはもうその話はしていますけど?」朱莉の言葉に京極は驚いた様子を見せた。「そうなのですか? でも安西君は本当にいい青年だと思いますよ。多少口が悪いのが玉に傷ですが、正義感の溢れる素晴らしい若者だと思います。社員に雇うなら彼のような青年がいいですね」朱莉はその話をじっと聞いていた。(そうか……京極さんは航君のことを高く評価していたんだ……)その後、2人は車内で美浜タウンリゾート・アメリカンビレッジに着くまでの間、航の話ばかりすることになった——****「どうですか? 朱莉さん。夜のアメリカンビレッジは?」ライトアップされた街を2人で並んで歩きながら京極が尋ねてきた。「はい、夜は又雰囲気が変わってすごく素敵な場所ですね」「ええ。本当にオフィスから見えるここの夜景は最高ですよ。社員達も皆喜んでいます。お陰で残業する社員が増えてしまいましたよ」「ええ? そうなんですか?」「そうですよ。あ、朱莉さん。観覧車乗り場に着きましたよ?」2人は夜の観覧車に乗り込んだ。観覧車から見下ろす景色は最高だった。ムードたっ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした    1-2 それぞれの今 2

     その日の夜のことだった。朱莉の個人用スマホに突然電話がかかって来た。相手は京極からであった。(え? 京極さん……? いつもならメールをしてくるのに、電話なんて珍しいな……)正直に言えば、未だに京極の事は姫宮の件や航の件で朱莉はわだかまりを持っている。出来れば電話では無く、メールでやり取りをしたいところだが、かかってきた以上は出ないわけにはいかない。「はい、もしもし」『こんばんは、朱莉さん。今何をしていたのですか?』「え? い、今ですか? ネットの動画を観ていましたが?」朱莉が観ていた動画がは新生児のお世話の仕方について分かり易く説明している動画であった。『そうですか、ではさほど忙しくないってことですよね?』「え、ええ……まあそういうことになるかもしれませんが……?」一体何を言い出すのかと、ドキドキしながら返事をする。『朱莉さん。これから一緒にドライブにでも行きませんか?』「え? ド、ドライブですか?」京極の突然の申し出に朱莉はうろたえてしまった。今まで一度も夜のドライブの誘いを受けたことが無かったからだ。(京極さん……何故突然……?)しかし、他ならぬ京極の頼みだ。断るわけにはいかない。「わ、分かりました。ではどうすればよろしいですか?」『今から30分くらいでそちらに行けると思いますので、マンションのエントランスの前で待っていて頂けますか?』「はい。分かりました」『それではまた後程』用件だけ告げると京極は電話を切った。朱莉は溜息をつくと思った。(本当は何か大切な話が合って、私をドライブに誘ったのかな……?)****30分後――朱莉がエントランスの前に行くと、そこにはもう京極の姿があった。「すみません、お待たせしてしまって」「いえ、僕もつい先ほど着いたばかりなんです。だから気にしないで下さい。さ、では朱莉さん。乗って下さい」京極は助手席のドアを開けるた。「は、はい。失礼します」朱莉が乗り込むと京極はすぐにドアを閉め、自分も運転席に座る。「朱莉さん、夜に出かけたことはありますか?」「いいえ、滅多にありません」「では美浜タウンリゾート・アメリカンビレッジに行きましょう。夜はそれはとても美しい景色に変わりますよ? 一緒に観覧車に乗りましょう」「観覧車……」その時、朱莉は航のことを思い出した。航は観覧車に乗

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   第2部 1-1 それぞれの今 1

     数か月の時が流れ、季節は10月になっていた。カレンダーの3週目には赤いラインが引かれている。そのカレンダーを見ながら朱莉は呟いた。「予定通りなら来週明日香さんの赤ちゃんが生まれてくるのね…」まだまだこの季節、沖縄の日中は暑さが残るが、夏の空とは比べ、少し空が高くなっていた。琢磨とも航とも音信不通状態が続いてはいたが、今は寂しさを感じる余裕が無くなってきていた。翔からは頻繁に連絡が届くようになり、出産後のスケジュールの取り決めが色々行われた。一応予定では出産後10日間はアメリカで過ごし、その後日本に戻って来る事になる。朱莉はその際、成田空港まで迎えに行き、六本木のマンションへと明日香の子供と一緒に戻る予定だ。「お母さん……」 朱莉は結局母には何も伝えられないまま、ズルズルここまできてしまったことに心を痛めていた。どうすれば良いのか分からず、誰にも相談せずにここまで来てしまったことを激しく後悔している。そして朱莉が出した結論は……『母に黙っていること』だった。あれから少し取り決めが変更になり、朱莉と翔の婚姻期間は子供が3歳になった月に離婚が決定している。(明日香さんの子供が3歳になったら今までお世話してきた子供とお別れ。そして翔先輩とも無関係に……)3年後を思うだけで、朱莉は切ない気持ちになってくるが、これは始めから決めらていたこと。今更覆す事は出来ないのだ。現在朱莉は通信教育の勉強と、新生児の育て方についてネットや本で勉強している真っ最中だった。生真面目な朱莉はネット通販で沐浴の練習もできる赤ちゃん人形を購入し、沐浴の練習や抱き方の練習をしていたのだ。(本当は助産師さん達にお世話の仕方を習いに行きたいところなんだけど……)だが、自分で産んだ子供ではないので、助産師さんに頼む事は不可能。(せめて私にもっと友人がいたらな……誰かしら結婚して赤ちゃんを産んでる人がいて、教えて貰う事ができたかもしれないのに……)しかし、そんなことを言っても始まらない。そして今日も朱莉は本やネット動画などを駆使し、申請時のお世話の仕方を勉強するのであった――****  東京——六本木のオフィスにて「翔さん、病院から連絡が入っております。まだ出産の兆候は見られないとのことですので、予定通り来週アメリカに行けば恐らく大丈夫でしょう」姫宮が書類を翔に手

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-22 戻りつつある日常 2

    「ただいま……」玄関を開け、朱莉は誰もいないマンションに帰って来た。日は大分傾き、部屋の中が茜色に代わっている。朱莉はだれも使う人がいなくなった、航が使用していた部屋の扉を開けた。綺麗に片付けられた部屋は、恐らく航が帰り際に掃除をしていったのだろう。航がいなくなり、朱莉の胸の中にはポカリと大きな穴が空いてしまったように感じられた。しんと静まり返る部屋の中では時折、ネイビーがゲージの中で遊んでいる気配が聞こえてくる。目を閉じると「朱莉」と航の声が聞こえてくるような気がする。朱莉の側にいた琢磨は突然音信不通になってしまい、航も沖縄を去って行ってしまった。朱莉が好きな翔はあの冷たいメール以来、連絡が途絶えてしまっている。肝心の京極は……朱莉の側にいるけれども心が読めず、一番近くにいるはずなのに何故か一番遠くの存在に感じてしまう。「航君……。もう少し……側にいて欲しかったな……」朱莉はすすり泣きながら、いつまでも部屋に居続けた——**** 季節はいつの間にか7月へと変わっていた。夏休みに入る前でありながら、沖縄には多くの観光客が訪れ、人々でどこも溢れかえっていた。京極の方も沖縄のオフィスが開設されたので、今は日々忙しく飛び回っている様だった。定期的にメッセージは送られてきたりはするが、あの日以来朱莉は京極とは会ってはいなかった。航が去って行った当初の朱莉はまるで半分抜け殻のような状態になってはいたが、徐々に航のいない生活が慣れて、ようやく今迄通りの日常に戻りつつあった。 そして今、朱莉は国際通りの雑貨店へ買い物に来ていた。「どんな絵葉書がいいかな~」今日は母に手紙を書く為に、ポスカードを買いに来ていたのだ。「あ、これなんかいいかも」朱莉が手に取った絵葉書は沖縄の離島を写したポストカードだった。美しいエメラルドグリーンの海のポストカードはどれも素晴らしく、特に気に入った島は『久米島』にある無人島『はての浜』であった。白い砂浜が細長く続いている航空写真はまるでこの世の物とは思えないほど素晴らしく思えた。「素敵な場所……」朱莉はそこに行ってみたくなった。 その夜――朱莉はネイビーを膝に抱き、ネットで『久米島』について調べていた。「へえ~飛行機で沖縄本島から30分位で行けちゃうんだ……。意外と近い島だったんだ……。行ってみたいけど、でも

สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status